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 ■私とアフリカ音楽■

 新コーナーをスタートすることにしました。題して「私とアフリカ音楽」。毎月一人ずつアフリカ音楽好きに登場してもらい、毎週1曲、コレだと思うアフリカ音楽を紹介してもらおうという企画です。
 多種多様なアフリカ音楽を総括的に紹介するなんてとても無理なので、個々人の好みからつまみ食い的に紹介してみようというわけです。
 人によって選び方は変わるだろうけど、それぞれの切り口でフェイバリットを出してもらいながら、その曲とのかかわりであったり、その音楽の背景であったりが出てくればいいななんて思っています。

●もくじ●
2010年1〜5月
 1.フェラ・クティ「パワー・ショウ!」Fela Kuti / Power Show!
 2.キング・サニー・アデ「シンクロフィーリングス」King Sunny Ade and His African Beats / Synchro Feelings - Hako


 2010年1〜5月


1.フェラ・クティ「パワー・ショウ!」Fela Kuti / Power Show!
レコード『オリジナル・サファーヘッド』 まずはWEB担当の私から口火を切らないと始まらないということで、今週は私がアフリカ音楽と出会った80年代はじめのこの曲から。

 いまは亡きフェラ・クティ(Fela Kuti)のパワー・ショウ!(Power Show!)という曲です。

 いまや何がきっかけでこのアルバムを知ったのか覚えていないのですが(ミュージックマガジンで知ったのかレコード屋でみつけたのか)、『オリジナル・サファーヘッド』というレコードのA面に入っていて、最初に針を落としたときからグッときて、はまってしまった最初のアフリカ音楽でした。いまでもよく聞いてます。

 まあ、これ以前にもアフリカ音楽は聞いてはいて、おもしろいと思った曲がなかったわけではないのだけれど、その後もアフリカ音楽とつきあうようになったのは、このアルバムのおかげだな。
 当時フェラ・クティのアルバムがもう1枚出ていたのを知りそれも手に入れたのだけど、この『オリジナル・サファーヘッド』と『アフリカン・プレジデント』(ソロウティアーズ&ブラッド、コロニアルメンタリティ、ITTが入っていた)はヘビーローテンションでかけてたアルバムでした。

 当時(調べると1982年のことだった)フェラ・クティについての情報はほとんどなくて、レコードのライナーノーツなどからアフロビートと呼ぶ新しい音楽スタイルを生みだした人で、ナイジェリアで政府の不正とたたかい、たびたび投獄されても音楽を武器にたたかいつづける抵抗の人と知り、もうひとりのボブ・マーリーなんだなと受けとめてました。

 タイトルのパワーというのは権力という意味。権力者たちのショウ、権力誇示とでも訳したらいいんだろうか、権力をかさにきた役人どもが自分たちにやっていること、たとえば入管では延々と待たせ(賄賂を渡さないと)手錠をはめられその日は国境を越えられない、とか歌ってます。(ちなみにフェラ・クティはヨルバ族の出身だが、ナイジェリアだけでも250以上という民族・部族にわかるようピジン英語(土着化した英語)で歌っている)

 あれから30年近くたつというのに、ナイジェリアの国情は変わっていないようだ。2005年アフリカゼロ年に放送されたNHKのドキュメンタリーを見たのだけれど、世界第7位の輸出量をほこる石油をねらって欧米の石油メジャーが進出、かつては軍事政権がその利益を独占して汚職・横領がはびこった(フェラ・クティも1兆円が国庫から盗まれた公金横領事件を「オーソリティー・スティーリング」で歌っている)のだが、現在でもそれは続き、中央政府が利益を独占し人々には還元しないという構造は変わっていない。石油の火が燃える対岸では、魚が捕れなくなって惨憺たるありさまの村がある。そして巨大な石油収入があるというのに、国は3兆円という債務をかかえアフリカ最大の借金国になっているという。

 フェラ・クティの音楽とたたかいは終わらず、フェラの死後はフェミ・クティやシェウン・クティら息子たちの世代が継いで活躍している。

 フェラ・クティのアルバムはほとんどすべてCD復刻され、アフロビート再興の流れがつくられてきた。フェラのアルバムをもう1枚あげるなら最後のアルバム、典型的なアフロビートのリズムというよりそれを超えていった『アンダーグラウンドシステム』をあげておきたい。これもいいんでみつけて聞いてみてください。

 ということで、私とアフリカ音楽の個人史というかんじで、次回もいきたいと思っています。

2010.1.28(荒川俊児)

●紹介した音は当時買ったレコード盤からで、聞き苦しいところがあるかもしれません。A面にパワー・ショウ!、B面にオリジナル・サファーヘッドが入っていました。〈フェラ・クティ『オリジナル・サファーヘッド』アリスタ25Rs-154〉

●復刻されたCDでは、以下のアルバムに入っています。この2in1のカップリングはいいです。
⇒フェラ・クティ『オリジナル・サファーヘッド/I.T.T.』Amazon.co.jpの紹介購入ページ

●フェラ・クティのその他のアルバムから個人的なおすすめは、
遺作⇒フェラ・クティ『アンダーグラウンドシステム』Amazon.co.jpの紹介購入ページ

ほかにもあげようと思ったんですが、自分が持っているCDが1993〜94年にビクターから出たシリーズが多くて、いまも多少出ているユニバーサル(現在はライス再発)のシリーズだとCD単位でどれがいいのかはっきりしないところがあります。なので元のアルバム単位であげると、70年代半ばから「ソロウ・ティアーズ・アンド・ブラッド」77年、「アラグボン・クローズ」75年、をあげておきます。次いで「エクスペンシブ・シット」75年、70年代前半なら「ジェントルマン」73年、「ロフォロフォファイト」72年かな。うーん、しぼるのが難しい。ベスト版やアンソロジーがいろいろ出ているので、それを手に入れた方が早いかもしれない。
Amazon.co.jpのフェラ・クティCDリスト

●アフロビート第2世代のアルバムでは、
⇒フェミ・クティ『ショキ・ショキ』 Femi Kuti / Shoki Shoki
第1世代だけどアフロビート再興のなかで復活⇒トニー・アレン『ラゴス・ノー・シェィキング』
海外での発展形⇒アコヤ・アフロビート『プレジデント・デイ・パス』Akoya Afrobeat / P.D.P.
いまのアフロビートをいろいろ聴けるアルバムでおすすめは⇒『アフロビートスーダンエイドプロジェクト ASAP』

●フェラ・クティ Fela Kuti
1938年ナイジェリア生まれ。1997年没。50年代より音楽家としてスタートし、留学していたイギリスからナイジェリアに帰ってきた63年頃から自身のバンドで活動を開始。1969年の米国滞在・公演ツアーのなかで、アフリカ音楽に根ざし、ロック、ジャズ、ソウルなどを融合した新しい音楽スタイル、アフロビートをつくり出していった。
1970年代には、ナイトクラブをつくりライブ活動の拠点とし、1974年には自宅周辺にフェンスをはりめぐらせ「カラクタ共和国」を宣言。軍事政権の腐敗を痛烈に批判するアルバムを次々と発表。軍の襲撃や弾圧のなか軍事政権と全面対決した。アルバムとしては1992年発表の『アンダーグラウンドシステム』が遺作。
フェラの意志を継ぎ、息子のフェミやシェウンのバンドが現在活躍している。




2.キング・サニー・アデ「シンクロフィーリングス」King Sunny Ade and His African Beats / Synchro Feelings - Hako
レコード『シンクロシステム』 前回のフェラ・クティにつづいて2回目はやはり80年代はじめ、同じナイジェリアのもう一つの顔、この曲をどうぞ。


 キング・サニー・アデ(King Sunny Ade)のシンクロフィーリングスという曲です。1983年の『シンクロシステム』というレコードに入っていて、全曲この雰囲気でつづきます。

 同じときにポリースは『シンクロニシティー』というアルバムを出していて、世界中でシンクロなんだなんて思ったのを覚えています。
 で、当時の私はというと、こちらのシンクロシステムより、ポリースの方にはまっておりました。
 なんでだったのかと思い返してみると、私がロック好きだったということがあるんだけど、おだやかにリズムがつづいていき、高まっても決して激高しないというか、爆発しないというあたりがはまらなかった理由だろうな。当時は刺激を求めてましたから。

 でも、このここちよさというのは捨てがたくて、ギターも含めいくつもの打楽器が重なりあって、えもしれない音世界をつくっていくサニー・アデの音は、買ったときよりあとになってレコードを引っぱり出しては聞くようになったというか、私にとっては思い出したように聞いて、長いつきあいになった曲です。

 別の言い方をすると、アフリカの現地でこの音を聞いていたらとってもいいのに、大都会で聞いているとなんかなじまないというのか。
 私自身はアフリカへ行ったことはないけれど、太平洋の島にはよく出かけたことがあって、そこで聞いているときははまっているのに、日本に帰ってくると一度聞いて終わってしまうカセットとかよくありました。
 音を生みだす風土といったものがあるとすると、それを聞く風土というか環境というのもあって、同じ音でも身体の受けとり方が違うんだと思ったもんです。

 同じときに、同じナイジェリアで違った音楽をやっていたフェラ・クティとサニー・アデ。当時はまだワールドミュージックという言葉は使われていなかったように思うけど、アフリカの音楽をワールドミュージックと伝統音楽(トライブミュージック)にざっくり分けるなら、フェラ・クティはワールドミュージックの人で、サニー・アデは伝統音楽の人(伝統音楽に軸足をおいた人)だったのかなといまになって思います。
 私自身はその後のサニー・アデを追っかけていないので、印象でしかないのですが。

 飲んだ翌日とか、まだ身体が起きたくないと言っているときにかけるとしっくりなじむ曲たちです。
2010.3.2(荒川俊児)

●紹介した音は当時買ったレコード盤からです。〈キング・サニー・アデ『シンクロシステム』ポリスター 25S-172〉

●現在購入できるCDを紹介しようと思ったのだけど、Amazonにはないみたいだな。復刻CDがあったと思ったけど廃盤になっている(キング・サニー・アデ『シンクロシステム』ポリスター / アイランド/マンゴ P27D-10017、1989年08月01日発売)。
輸入盤がすごい値段だけど⇒Synchro System / King Sunny Ade

ならばこちらをどうぞ⇒King Sunny Ade『Juju Music』

⇒Amazon.co.jpのサニー・アデCDリスト

●次回は90年代に飛ぶので、80年代後半のワールドミュージックと呼ばれるようになったころのものをピックアップしてみます。私の場合、つまみ食い的に聞いているので、ヒットしたアルバムが多いな。
⇒ユッスー・ンドゥール『ネルソン・マンデーラ』1987年
⇒モリ・カンテ『アクワバビーチ』1987年
⇒サリフ・ケイタ『コヤン』1989年
⇒トマス・マプフーモ『チャムノルワ』1991年

 

 

 
掲載2010年 1月28日  
更新2010年 3月 2日